最終更新日:2025/04/04
今回は石巻市渡波にあるサン・ファン館を紹介します。サン・ファン館は今から400年以上も昔にヨーロッパをめざした慶長遣欧使節の歴史や、彼らを乗せて太平洋を渡った木造洋式帆船「サン・ファン・バウティスタ」号を中心に帆船文化を伝えるミュージアムです。
歴史的な魅力と美しいデザインの建物が融合した素敵な空間で、訪れる人々を魅了します。
エントランスも異空間へと誘う作りで、館内はガラス張り。ワクワク感を盛り上げます。
サン・ファン館のロゴもおしゃれ。
1 東日本大震災からの復興、解体そして再建への道のりを知ろう!
サン・ファン館と復元船「サン・ファン・バウティスタ」号の震災を乗り越えてきた軌跡を辿ることができます。東日本大震災の記憶を風化させないという意味でも訪れる価値のある場所がサン・ファン館でもあります。
東日本大震災によって、沿岸地域は壊滅的な影響を受けました。特に施設や構造物は大津波による甚大な被害を受け、多くが一瞬で姿を消しました。しかし、その中でもひときわ注目を浴びたのが、復元船「サン・ファン・バウティスタ」号でした。この歴史的な船は、奇跡的に大津波を耐え抜き、ドック内に留まっていたのです。
「サン・ファン・バウティスタ」号は、江戸時代初期に仙台藩で建造された船で、その復元は多くの歴史愛好家や船舶の専門家たちによって支えられてきました。震災後、その船体は津波の脅威に晒されることなく留まったものの、不運にも震災からおよそ1カ月後、猛烈な突風によって中央メインマストの上部と前方のフォアマストが折れるという大きなダメージを受けました。津波に耐えたと思われた船体も、衝撃の強さが予想以上であった可能性があり、自然の脅威が再びその存在を試すこととなったのです。
それでも、その後も国内外から寄せられた温かい支援と情熱に支えられ、「サン・ファン・バウティスタ」号の復興作業が続けられた結果、震災から2年8カ月という年月を経て、ついにサン・ファン館は再開を果たすことができました。この再開は地域社会や文化活動にとっても大きな励みとなり、多くの人々の心に希望の灯をともしました。
一方で船体は木造であるため、長い年月を経たことによる腐朽や老朽化が思った以上に進行していました。加えて、海水に浮かぶ状態で停泊していたため、潮風や湿気などの影響も受けやすく、その維持には大きな課題が伴いました。ドライドックによる大規模補修工事も行っていましたが、修復箇所以外にも広範囲な腐朽拡大が想定されており、腐朽防止の対策委員会も立ち上げていましたが、震災によりこういった補修事業も中止となってしまいました。
また、津波の影響で船体が想定以上に損傷を受けていることも判明しました。船の今後のあり方については検討委員会が設けられ有識者や行政の代表者が専門的見地から何度も検討しました。その結果、残念ながら保存が断念される決定が下されることとなりました。
予算や耐久性、素材の選定などを踏まえた結果、復元は4分の1スケールで行われることとなりました。「サン・ファン・バウティスタ」号は2024年10月に新たな姿でその再生を遂げたのです。
この再建には多くの専門家等が関わり、その成果として、かつての雄姿を模した美しい復元がなされました。ドック棟には復元船「サン・ファン・バウティスタ」号の船体構造配置図や肋骨模型等も展示されており、スケールは変わっても構造は忠実に再現されていることが分かる資料が並んでいます。その精巧さに引き込まれ、時間を忘れて見入ってしまうほどです。かつての姿は、今では地域の象徴として、大切に守り続けられているのです。
2 復元船「サン・ファン・バウティスタ」号2代目、4分の1スケールで登場
ドック棟へと向かう長いエスカレーターに乗ると、心は自然と高揚していきます。降りるにつれて、右側の窓からは、「サン・ファン・バウティスタ」号の雄大な姿が次第に迫ってくるのを感じます。まるで歴史の一部が目の前に現れたかのような感覚に包まれ、胸が高鳴ります。船を目の前にした瞬間、心の中で何かが一気に膨らむような、そんなワクワクする気持ちを感じながら、降りていきます。
リニューアルオープンの目玉は、忠実に再現された「サン・ファン・バウティスタ」号です。4分の1スケールで復元され、ドック棟に展示されています。
新たに復元された「サン・ファン・バウティスタ」号は、褐色の原寸大の船形の上に展示されています。この展示方法により、来館者は実際の船の大きさを容易に実感することができます。
さらに、復元船と並んで保存された原寸大復元船のメインマストが横たわり、木造船「サン・ファン・バウティスタ」号の当時の壮大さを一層引き立たせる工夫が施されています。
木造復元船の部材も原寸大で展示されています。圧倒的な迫力を持つ竜の船首像は、航海の守護神としての役割を果たすとともに、船の力強さを象徴しています。
九曜紋(くようもん)は、伊達政宗の使用した家紋のひとつで、船の安全と繁栄を祈る意味を込めた厳かなシンボルとして、航海の成功を願ったその歴史的な背景が色濃く表現されています。
復元船の周囲に新たに設置されたARによる映像効果を加え、まるでその時代にタイムスリップし、原寸大の「サン・ファン・バウティスタ」号が目の前に甦ったかのような臨場感を味わうことができます。ドック棟では展示物すべての要素が一体となって当時の壮大な航海の物語を鮮やかに蘇らせます。
ドック棟の東ウイングは、「伊達の黒船物語」と題し、帆船の建造工程や船内の生活、航海の技術などを中心に、壁面いっぱいに大型イラストで分かりやすく解説してあります。特に当時の航海に使用された道具や船内での生活が詳細に描かれており、単なる歴史的な展示にとどまらず、航海士たちの奮闘が伝わってきます。さらに航海用具や船内の暮らしを再現したジオラマも展示されており、来館者は実際に船がどのように運行され、乗組員がどのように過ごしていたのかを目の当たりにすることができます。ジオラマの中には、帆船の操縦に欠かせない道具や、食事の準備、休憩の様子など、細部にわたり精巧に再現されており、その時代の航海の厳しさや冒険心を身近に感じることができるでしょう。
この人形に見覚えはありますか。仙台市サンモール一番町商店街にあったからくり時計にその姿がありました。2012年に時計自体撤去されますが、からくり時計の一部として、時を刻み続けてきたこの人形は、長年にわたり多くの市民の目を楽しませ、愛されてきました。2025年3月31日までドック棟エントランスでその勇姿を見ることができます。大変貴重なものを見ることができました。※現在、展示は終了しています。
3 慶長遣欧使節の歴史に関するインタラクティブ展示
館内を奥に進むと展望棟があります。足を踏み入れると、まるで歴史の1ページに迷い込んだかのような感覚に包まれる展示レイアウト。空間の使い方が巧妙で、展示パネルの1枚1枚の配置が、観客を引き込んでいきます。ここから、慶長遣欧使節の生みの親と称される伊達政宗の時代へと、物語が静かに始まります。最初に目に飛び込んでくるのは、政宗が目指した国づくりの壮大なビジョン。展示棟を進むに連れ、彼の偉大な遺産が描かれた展示物が、力強く語りかけます。伊達政宗が目指した国際的な交流、そしてその中心となった慶長遣欧使節の壮大な旅路が、視覚的にも感情的にも強く感じられるような展示となっています。
慶長使節展示室の入口には、5種類の「なりきりパスポート」(向かって右から、徳川家康、ルイス・ソテロ、支倉常長、伊達政宗、セバスチャン・ビスカイノ)が用意されており、自分の考えを記入しながら、その人物の視点から歴史を振り返ることができる工夫もされています。
慶長使節展示室の入口の右手には、石巻の月浦から使節船が出帆するシーンが映像で投影され、まるでその瞬間に立ち会っているかのような臨場感を与えてくれます。映像が流れ、波の音や風の音、さらには船員たちの掛け声が響き渡り、その壮大な瞬間が目の前に現れるのです。ここから、慶長遣欧使節の歴史の扉が開かれ、展示室に誘います。
展示室入って右手には、慶長遣欧使節の歴史的な旅の全貌が独創的なタッチで描かれています。慶長遣欧使節が辿った道筋、彼らの意義、そしてその冒険的な旅路が鮮やかに表現されています。この壮大な絵画は、東京パラリンピックの公式ポスターを手掛けた画家・山口晃さんが表現したものです。作品名は「ファ士(し)クラ渡海遣欧奇」。このユニークなタイトルには、慶長遣欧使節が当時どれほどの異国情緒と未知の世界を目指していたかといった旅の神秘的な要素とその壮大なスケールが込められているように伝わります。その意義や歴史的な意味が一目で分かるこの作品は、ただの視覚的な楽しみを表現しているだけではなく、その深い歴史的背景を学ぶ上で欠かせない1枚です。
慶長使節展示室を奥に進むと、一際目を引く「万国地球儀」が目に飛び込んできます。ここには世界地図や航海の過程などが映し出されています。特に印象的なのは、17世紀の世界地図「坤輿(こんよ)万国全図」が巨大な地球儀に映し出される場面で、まるで当時の航海を追体験するかのように、サン・ファン号が1613年に牡鹿半島の月浦を出帆し、太平洋を横断してメキシコに到達、その後欧州へと渡る航海の様子が鮮明に浮かび上がります。さらに、展示室の最深部には支倉常長とローマ教皇の謁見の場面が精巧で立体的なレリーフで再現されています。そこにいると自分が傍観者の一人になったような臨場感があり、圧倒されます。支倉常長が青と白の格子模様の衣服を身にまとって教皇と謁見する姿が描かれており、彼の姿勢や衣服の詳細に至るまで、当時の格式や礼儀を感じ取ることができます。
また、政宗がローマ教皇に送った書状(精緻な再現)も展示されており、当時の政宗の外交的な意図や、彼が日本と西洋の文化交流をどれほど重視していたかが表れています。その時代の歴史的な重みや、使節団が果たした役割の大きさが分かります。
アニメーションと実写・CG を組み合わせた映像を、船上を表現した迫力ある大画面シアターで上映(約20分)しています。
4 オリジナルグッズを手に入れよう!
館内には「サン・ファンショップ」があり、リニューアルに伴い、Tシャツやトートバッグなど新しいグッズもラインナップ。どれもほしくなるものばかり。
他にも、復元船のマスト材を使用したグッズや石巻のお菓子などもあり、買い物も十分楽しめます。
5 映画レジェンド&バタフライで永遠となったバウティスタ号
木村拓哉主演の映画「レジェンド&バタフライ」はご存知だと思いますが、その撮影で「サン・ファン・バウティスタ」号が使われていたということを知っている人は少ないかもしれません。
サン・ファン館が「レジェンド&バタフライ」のロケ地となりました。この撮影は、まさに運命的なタイミングで行われたものでした。「サン・ファン・バウティスタ」号が展示されるドック棟への立ち入りは、2016年以降安全性の問題から禁止され、解体工事が迫っている中での撮影だったのです。まるで、船自身がその最後の雄姿を映画という形で、再び世に送り出すかのような瞬間でした。
掲載画像は、解体前の原寸大復元船「サン・ファン・バウティスタ」号です。※サン・ファン館提供
サン・ファン館では、4月26日から企画展「映画のなかの復元船」を開催。映画で使用された小道具などの展示も行います。※詳細はサン・ファン館webサイト参照
撮影後、「サン・ファン・バウティスタ」号は老朽化のため解体され、物理的にはその姿を消しました。しかし、その船が映し出されたフィルムの中には、「サン・ファン・バウティスタ」号の雄姿が永遠に残り、時を超えて生き続けることとなります。まるで、船が宿命的にその役目を果たし、映画の中で新たな命を得たかのようです。
「サン・ファン・バウティスタ」号は、その運命を感じさせる存在です。歴史的な出来事においても、そしてその後の解体という運命の中でも、その名と姿は私たちの記憶に刻まれています。解体されたとはいえ、その魂は映像の中で生き続け、観る者に強い印象を与え続けることでしょう。「サン・ファン・バウティスタ」号は、ただの船ではなく、時代を越えてその存在を語り継ぐ、運命に導かれた船なのです。
震災を乗り越え、再びその姿を蘇らせた「サン・ファン・バウティスタ」号。多くの困難を乗り越え、4分の1スケールの復元船として今、その雄姿を見せています。サン・ファン館で出会えることは、教科書にも載るほどの歴史的な出来事を象徴するものでありながら、意外にもその詳細を知る人は少ないのが現実です。しかし、サン・ファン館ではその歴史的な背景を丁寧に紐解き、「サン・ファン・バウティスタ」号がどれほど重要な役割を果たしたのか、そしてそこに関わる人物が何を意図していたのかを知ることができます。
時代を超えてその存在を語り継いでいく運命に導かれた「サン・ファン・バウティスタ」号は、単なる船ではありません。歴史の中で多くの人々と関わり、今もなおその存在が私たちに語りかけています。その物語を五感で感じ取ることができるのが、サン・ファン館の魅力のひとつです。展示品を見て、触れて、聞いて、感じることで、過去と現在がひとつになり、「サン・ファン・バウティスタ」号の歴史がより深く心に刻まれます。
館内でしか手に入らないグッズも販売されており、思い出を手に入れることができます。
サン・ファン館で、過去の偉業を目の当たりにし、その存在を感じることができるこの場所に足を運ぶ価値は計り知れません。ぜひ、「サン・ファン・バウティスタ」号の運命を感じ、歴史の中に息づく物語を五感で体験してみてください。
さあ、サン・ファン館へいってらっしゃい!
―基本情報―
【住所】〒986-2135 宮城県石巻市渡波字大森30-2
【TEL】0225−24−2210
【WEB】https://www.santjuan.or.jp
【Instagram】https://www.instagram.com/santjuan_official?igsh=a2xleHVvbno2MDQ3
【アクセス】車:三陸自動車道 石巻河南インターより牧山トンネル・国道398号線経由約25分
電車:JR石巻駅よりJR石巻線(女川行き)乗車
JR渡波駅下車後、タクシー5分または徒歩25分
【入場料金】一般(大学、各種校含) 500円
団体(20名以上) 400円
高校生以下 無料
【開館時間】午前9時30分から午後4時30分まで(公園は常時開放)
※最終入館は閉館の30分前まで
※8月中は午後5時30分まで延長開館
【休館日】火曜日(祝日の場合は開館)
年末年始(12月28日〜1月4日)
【駐車場】乗用車300台(車高2.1mまで)/大型駐車場・駐輪場併設
この記事のライター
仙台在住でドローンパイロットをしています。四季折々の美しい風景や霊視ある建物、地元のお店など、ドローンならではの視点から宮城の魅力を発信しています。空から見た宮城の新しい一面を交えながら多くの人に届けたいと思っています。私の記事を通じて宮城県の豊かな自然や文化、温かい人々の魅力を再発見してもらえたらうれしいです。 |
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